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英文秘密保持契約(NDA)契約修正例−3【寺村総合法務事務所】

代表:寺村 淳(東京大学法学部卒、日本製鉄17年勤務)
Email: legal(at)eibun-keiyaku.net

英文NDA条項検討ポイント3Non-Disclosure Agreement

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英文NDA契約例の条項修正−3


ご注意下さい!−
  ここに掲載されている英文契約案とその修正及び和訳例は、
  あくまで「参考」としてご覧ください。

A. 契約例(修正前の英文及び和訳例)こちらのPDFをご覧下さい




B. 秘密保持契約(NDA)契約修正例とそのポイント−3


NDA(英文秘密保持契約)の条項検討の続き〜秘密保持期義務についてです。
例として検討する第4条は、いろいろな義務をまとめて記載しており、非常に長くなっています(第1項から第4項まであります)。
従って、項ごとに分けて説明したいと思います。 まず、第1項です。 ここでは一般的な守秘義務が規定されています。


<検討条文例>


4.Obligations
(1) Each Party agrees that the Confidential Information which may be expressed in any form or attached to any medium and disclosed by each Party to the other Party is an actually or potentially valuable, special and unique asset of the Discloser. Accordingly, the Recipient shall perform the following obligations to protect the Confidential Information:
  (i) maintain Confidential Information in confidence;
  (ii) ensure the Recipient’s employees receiving access to Confidential Information have a need to know such Confidential Information in order to fulfill their duty and be bound to confidentiality by their employment agreement or otherwise not less stringent than the obligations of this Agreement;
  (iii) do not disclose or release the Confidential Information, directly or indirectly, to any third party, and not reproduce the Confidential Information in any form without prior written consent of the Discloser; and
  (iv) do not de-compile or reverse engineer the Confidential Information, or electrically record or photograph any conversation or meeting with the Discloser’s personnel as well as the Discloser’s facilities or premises without prior written consent of the Discloser.

<和訳例>
第4条 義務
(1) 各当事者は、表現された形式や添付された媒体が何であれ、ある当事者から他方当事者に開示される秘密情報が、現実に開示者の価値ある特別で独自のものであるか又はその可能性のあるものであることを、了解している。従って、受領者は、秘密情報を保護するために、以下の義務を履行するものとする。
  (i) 秘密情報を秘密に保持すること。
  (ii) 秘密情報に対するアクセスする受領者の従業員が、その義務を履行するために当該秘密情報を知る必要性があり、雇用契約であろうと他のものであろうと、本契約に基づく義務と同等以上の守秘義務を負っていることを確約すること。
  (iii) いかなる第三者に対しても、直接にも間接にも秘密情報を開示し又は提供せず、さらに、開示者の事前の書面による承諾なく秘密情報を複製しないこと。
  (iv) 秘密情報のデコンパイル及びリバースエンジニアリングを行わず、また、開示者の事前の書面による承諾なく開示者の従業員との会話又は打ち合わせ、並びに開示者の設備や施設について、電子的に記録したり写真を撮ったりしないこと。



<条文の考え方>
●本項では、まず秘密情報が開示者にとって価値のあるものであることに同意しています。

そのうえで、(i)から(iv)までの義務を負うことに同意しています。
これら(i)から(iv)までは、一般的な秘密保持義務といえます。

  ★ 第(ii)号に “or otherwise”という表現があります。これは、直前のフレーズを踏まえて「Aであろうとそれ以外であろうと」という意味であり、「Aを含めあらゆる形態のものを含む」という意味を持つこととなります。


<条文修正の考え方>

●一番最初の文の主語が “each Party”「各当事者」となっており、またその後でも“by each Party”などとなっています。そのため、最初の「各当事者」と次の「各当事者」の関係があいまいになっています。
この文章は、「情報の開示を受けた者」が相手方の情報に価値があることに同意する、という意味でなければなりません。
つまり、「<情報の受領者>は<情報の開示者>から開示される情報が価値のあるものであることを同意する」と明確に記載されるべきでしょう。

●上記と関連しますが、この文章では、既に「受領者= “the Recipient”」という定義用語が使われていますので、それを上に述べた最初の文章に適用すべきです。
  (なお、この英文原案のリサイタル条項(NDA-2)では最初から“the Discloser”と“the Recipient”の定義があるような体裁になっていますが、実際には、この定義はなされていませんでした。それにも拘わらず、この条項では、 “the Discloser” “the Recipient”として大文字の用語が使われていましたので、契約の体裁としてはそもそも不適切でした。また、仮に、NDA-2の原案のように定義があったならば、その定義は、それ以下の定めの中ではできる限り使用すべきです。)

●また、2つめの文章では「受領者は秘密情報を保護する義務を負う」とされていますが、受領者は「自らの」秘密情報について保護する義務を負うわけではありませんから、明確に「開示者の秘密情報」と規定すべきです。

●第(ii)号 では、“employees receiving access to“「〜へのアクセスを得る従業員」という表現が使われています。
あまり聞きなれない表現ではありますが、一応辞書には載っているようです。
ただ、この号の大意は「秘密情報にアクセスを得る従業員が、当該秘密情報を知る必要があることを確約する」ということですので、契約としては「知る必要がある者に限定することを確約する」と記載すべきだと思われます。

●同じ第(ii)号の後半では、「雇用契約か否かを問わず」本契約の義務と同等以上の義務を負った者(に限る)」とされています。
ここでは「or otherwise」となっていますので、「雇用契約でもいいし、その他どんなものでもいいから、守秘義務を負うっている者」という意味になります。
この表現では、従業員が「書面」によって守秘義務を負っている者に限定されておらず、口約束でも構わないことになってしまいますので、「書面によって」義務を負う者に限定すべきでしょう。

●次の第(iii)号は、いかなる第三者にも秘密情報を開示しないとしています。
 実は、ここには掲載されていない次の第2項の内容と重複するものでした。
  次の第2項では、 「(他の部分に別段の定めがあってもそれにもかかわらず、本目的に必要な範囲において)各受領者は、開示者の秘密情報を、受領者とその関連会社との間で開示することができるものとする」 と規定されています。
 従って、この第(iii)号と第2項との関係を整理する必要がありますが、第2項では、 “Notwithstanding anything to the contrary”(別の部分に別段の定めがあってもそれにもかかわらず)と記載されており、第2項が他の定めに優先することが規定されています。
 しかし、どちらにも「従業員」や「弁護士・コンサルタント等の専門家」などに開示できるのか否かが規定されていませんでした。 従業員については、前の第(ii)号で従業員への開示が可能であることを前提とした記述がありますが、それ以外の者については、ボヤっとした感じが否めません。
 そこで、第(ii)号、本号及び第2項の間で矛盾をなくすため、この第(iii)号において但し書きを設けるべきと思われたため、下記の修正例にあるような句を挿入しています。
 また、第4条第2項以下を想定し第(iii)号において、「従業員」、「弁護士等」、「関連会社」及び「下請業者」をまとめて「従業員等」とする旨の定義を追加しています。


<英文修正例>

4.Obligations
(1) The RecipientEach Party agrees that the Confidential Information which may be expressed in any form or attached to any medium and disclosed by the Disclosereach Party to the Recipientother Party is an actually or potentially valuable, special and unique asset of the Discloser. Accordingly, the Recipient shall perform the following obligations to protect the Confidential Information of the Discloser:
  (i) maintain Confidential Information in confidence;
  (ii) ensure the Recipient’s employees receivingto limit the access to Confidential Information to Recipient’s employees who have a need to know such Confidential Information in order to fulfill their duty hereunder and/or in order to study and evaluate the Purpose and be bound byto confidentiality obligations underby their employment written agreement between the Recipient and each employee or otherwise which shall not be less stringent than the obligations of this Agreement;
  (iii) do not disclose or release the Confidential Information, directly or indirectly, to any third party (other than the aforementioned Recipient’s employees, and its attorney or other professional consultants, and its affiliates and subcontractors (hereinafter collectively called the “Employees”) subject to the provisions set forth in Section4-2), and not reproduce the Confidential Information in any form without prior written consent of the Discloser; and
  (iv) do not de-compile or reverse engineer the Confidential Information, or electrically record or photograph any conversation or meeting with the Discloser’s personnel as well as the Discloser’s facilities or premises without prior written consent of the Discloser.

<修正例の和訳>
第4条 義務
(1)受領者各当事者は、表現された形式や添付された媒体が何であれ、ある当事者開示者から他方当事者受領者に開示される秘密情報が、現実に開示者の価値ある特別で独自のものであるか又はその可能性のあるものであることを、了解している。従って、受領者は、開示者の秘密情報を保護するために、以下の義務を履行するものとする。
  (i)  秘密情報を秘密に保持すること。
  (ii) 秘密情報に対するアクセスを、する受領者の従業員が、その本契約に基づく義務を履行し又は本目的を検討及び評価するために当該秘密情報を知る必要性があって、受領者と当該従業員との間の書面による雇用契約によりであろうと他のものであろうと、本契約に基づく義務と同等以上の守秘義務を負っている受領者の従業員に限定することを確約すること。
  (iii) 受領者の上記従業員、及びその弁護士その他専門的コンサルタント、並びに第4条(2)の定めに従うことを条件としたその関連会社及び下請会社(以下「従業員等」という。)を除き)いかなる第三者に対しても、直接にも間接にも秘密情報を開示し又は提供せず、さらに、開示者の事前の書面による承諾なく秘密情報を複製しないこと。
  (iv) 秘密情報のデコンパイル及びリバースエンジニアリングを行わず、また、開示者の事前の書面による承諾なく開示者の従業員との会話又は打ち合わせ、並びに開示者の設備や施設について、電子的に記録したり写真を撮ったりしないこと。




<第4条第2項>

●前回の第4条第1項には、秘密保持義務に関する一般的な定めが規定されていましたが、第2項ではどうなっているでしょうか?


<条文例>
(第4条) (2) No Party will use or incorporate any Confidential Information received from the other Party in any way whatsoever except solely for the purposes outlined herein.
Notwithstanding anything to the contrary, to the extent reasonably appropriate in connection with furthering such purpose, each Party may disclose the Discloser’s Confidential Information between and among the Recipient and its affiliates (which, for purpose of this Agreement, are defined as being any entity at least 40% of which is owned or controlled, directly or indirectly, by the Recipient, or which owns or controls, directly or indirectly, at least 40% of the Recipient), on the condition that such affiliates will be bound as party to this Agreement with the Recipient remaining responsible to ensure compliance by such affiliate.

<和訳例>
(2) いずれの当事者も、本契約に規定された目的のみのために行う場合を除き、いかなる方法であっても、他方当事者から受領した秘密情報を使用し又は統合しないものとする。
反対の記述があったとしてもそれにも拘わらず当該目的の推進に関連して合理的に適切な限りにおいて、各当事者は、開示者の秘密情報を、受領者とその関連会社との間で開示することができるものとする(本契約において関連会社とは、直接または間接に、受領者によってその株式の40%以上を保有されている会社、または、または、直接または間接に、受領者の株式の40%以上を保有している会社と定義される)。但し、当該関連会社は本契約の当事者として拘束されること、および、受領者が当該関連会社に遵守させる責めを負い続けることを条件とする。


<条文の考え方>


●この第4条第2項は、前半で、相手方の秘密情報の目的外使用を禁止する旨が定められています。
また、後半では、関連会社への開示を認める旨を定めています。

●本項の前半と後半が無関係なようにも見えますが、おそらく、起案者は、前半の目的外使用の禁止の例外として、「本目的のために関連会社に開示することは目的外使用には当たらない」との考え方から、後半の例外を加えたものと思われます。
これについては、「第三者への開示の禁止」と「目的外使用の禁止」は本来別物であり、前の第4条第1項で開示可能範囲を限定し、この第4条第2項では、第1項で認められた開示可能範囲であっても目的外で使用することはできない、という規定の仕方がわかりやすいといえます。
ただ、一応、起案者の考えを尊重して、この案をベースに修正を考えることにしました。

  ★  二つ目の文頭は「Notwithstanding anything to the contrary」となっています。これは「本契約の他の部分に別段の定めがあってもそれにも拘わらず」という意味です。つまり、本契約の他のいかなる定めよりも、以下の定めが最優先で適用される、ということになります。 これはよく用いられるフレーズですが、他の部分の定めの適用を排除してしまう効果がありますので、注意が必要です。
  (例えば、第A条で「当事者の契約不履行が当該当事者の故意又は重過失による場合、相手方の逸失利益の全額も賠償する」といった定めがあったとしても、最後の方の第Z条に「Notwithstanding anything to the contrary(本契約の他の定めに別段の定めがあった場合であってもそれにも拘わらず)、当事者の相手方に対する責任は、いかなる場合も、相手方の直接かつ現実に被った通常の損害に限定される」との規定がある場合、故意の場合であっても、第A条にも拘わらず逸失利益の賠償を受けことができるのか、怪しくなってしまいます。)


<条文修正の考え方>


●この第4条第2項も、きちんと定義した用語を使うべきです。
最初の文では、「いずれの当事者も」「相手方から」「他方当事者」という表現や、「規定された目的」といった用語を用いています。 当事者については、すべて「開示者」と「受領者」のいずれであるかを明確にすることが必要です。
また、この第2項の中の最初の二つの「目的」は、第1条で定義されている「本目的」の意味ですから、きちんと大文字で記載すべきです。
  ★  なお、かっこ書きの中の “(which, for purpose of this Agreement,…”の部分の “purpose”は、本目的ではないと解釈されます。ここは「本契約の目的において、以下の用語は以下の意味を持つ」という文脈で用いられています。
 但し、和訳文としては「目的」という単語を排除して「本契約においては...」とする方が自然な訳になります。

●1行目に “incorporate”という動詞があります。
 起案者は、この用語で、秘密情報を「何か」に「合体」し又は「統合」するということを言いたかったのではないかと思いますが、その「何か」が書かれていません
 ひょっとすると「秘密情報全体」を「統合する」ということかもしれません。
 しかし、このようなあいまいな単語は、カットすべきでしょう。 もし、その単語が重要な意味を持つ場合であれば、きちんとわかるように明確に記載すべきでしょう。
 ここでは、秘密情報の「統合」が何を意味しているのかあいまいで、開示された秘密情報を「集めてまとめておく」ことすら違反だと解釈されるおそれすらありますので、この単語はカットすべきでしょう。

●本項では、関連会社は「直接又は間接に40%以上の持ち分を有する会社」と定義されています。
 これは法制度によっても考え方が違いますし、契約自由の原則から、当事者間においては40%以上を関連会社とする、ということもあり得ます。これは当事者の実態に応じて協議で決定することになります。
  (なお、日本の財務上は20%を基準に影響力の実態に応じてより広い範囲の会社を関連会社としているようです。詳しくは財務諸表規則をご覧ください。)

●本項では、本目的を達成するために合理的に適切と判断される場合は、「関連会社」に対してのみ開示できるとしています。しかし、本目的のために「従業員」「業務委託先」「下請会社」などに、開示者の秘密情報を開示せざるを得ない場合も含めるべきだと思います。下請け会社がみな関連会社とは限りませんので、ここでは、下請に開示できる旨を明記すべき場合も多いと思われます。 (下記の条項修正例では、前項で定義された「従業員等」(=下請会社、関連会社、従業員、専門家など)を包括的に追加しています。)

   ★   最後の “on the condition”というフレーズは「〜を条件として」という意味であり、その内容は「関連会社は、本契約の当事者として拘束される=義務を負うこと(を条件とする)」となっています。
 しかし、関連会社が「本契約の当事者としての義務」と同じ義務を100%負うとするのは、違和感があります。
 
ここでは「本契約における秘密保持義務と同等以上の義務を負っている会社」としておくべきです。

  ★  最後の文章の後半に “with the Recipient remaining responsible … ”とあります。
 これは、別の内容をwithを用いて規定しており、「受領者は責任を負う(ことを条件とする)」といった意味です。このwithは、前の「関連会社が本契約と同等以上の義務を負担するとともに」という内容に加えて「さらに、当該関連会社が当該義務を遵守することを受領者が確約する」ことも上記の「条件」になることを表しています。


<英文修正例>
(2) The RecipientNo Party shallwill not use or disclose or incorporate any Confidential Information received from the other PartyDiscloser in any way whatsoever except solely for the pPurposes outlined herein.
 Notwithstanding anything to the contrary, to the extent reasonably appropriate in connection with furthering such pPurposes, the Recipienteach Party may disclose the Discloser’s Confidential Information between and among the Recipient andto its Employees, including its affiliates (which, for purpose of this Agreement, are defined as being any entity at least 40% of which is owned or controlled, directly or indirectly, by the Recipient, or which owns or controls, directly or indirectly, at least 40% of the Recipient) and/or its subcontractors who have a need to know such Confidential Information for the aforementioned Purpose, on the condition that such Employeesaffiliates will shall be bound by the confidentiality obligations not less stringent than those hereunder,as party to this Agreement with the Recipient remaining responsible to ensure compliance by such Employees.

<修正例の和訳>
(2) いずれの当事者も受領者は、本契約に規定された本目的のみのために行う場合を除き、いかなる方法であっても、相手方開示者から受領した秘密情報を使用し又は統合しない又は開示しないものとする。
 反対の記述があったとしてもそれにも拘わらず、当該目的の推進に関連して合理的に適切な限りにおいて、受領者は、開示者の秘密情報を、受領者とその関連会社との間で上記本目的のために当該秘密情報を知る必要のあるその関連会社及び下請企業を含め、その従業員等に、開示することができるものとする(本契約において関連会社とは、直接または間接に、受領者によってその株式の40%以上を保有されている会社、または、または、直接または間接に、受領者の株式の40%以上を保有している会社と定義される)。但し、当該関連会社は本契約の当事者として拘束される従業員等が本契約に基づく秘密保持義務と同等以上の守秘義務を負うこと、および、受領者が当該関連会社従業員等に遵守させる責めを負い続けることを条件とする。





<第4条第3項>

第4条第3項では、開示者から受領した秘密情報に関する書類などを保護・管理する義務を規定しています。

<条文例>
(3) The Recipient shall safeguard all things, documents, and work that embody Confidential Information of the Discloser in areas reasonably restricting access and preventing unauthorized use and/or disclosure. The Recipient shall protect the Confidential Information received from the Discloser by adopting higher degree of care in the following two ways:
    (1) the same degree of care, but no less than a reasonable degree of care, as it uses to protect its own Confidential Information; or
    (2) the reasonable degree of care the local hi-tech companies normally use to protect their Confidential Information.

<和訳例>
(3) 受領者は、開示者の秘密情報を具現化したあらゆる物、書類及び作品を、アクセスが合理的に制限され、不正使用及び不正開示を合理的に防止した区域において保護するものとする。受領者は、開示者から受領した秘密情報を、以下のうちより高い方の注意義務を用いて保護するものとする:
  (i) 受領者自身の秘密情報を保護するために受領者が用いるのと同等の注意であって、しかし、合理的なレベルを下回らない注意を払うこと、又は
   (ii) 現地のハイテク企業が、その秘密情報を保護するために通常用いる合理的なレベルの注意を払うこと。



<条文の考え方>

●その保護・管理の程度は、二つの基準のうちより厳しい基準に基づくことが要求されています。

   ★  “local hi-tech companies”の “local”は、「地方」とか「田舎の」といった意味ではなく、「現地の」という意味と思われます。本契約で言えば、「受領者が存在する国や地域における」といった意味になります。


<条文修正の考え方>

●この「二つの基準のうち、より厳しい方」についてです。
 この二つとは 「(i) 受領者自身の秘密情報を保護するために受領者が用いるのと同等の注意であって、しかし、合理的なレベルを下回らないレベル」又は 「(ii) 現地のハイテク企業が、その秘密情報を保護するために通常用いる合理的なレベル」 となっています。
 これでもよいとも思いますが、(ii)の内容を基準の一つとすることはほとんど見かけませんし、その内容も(i)に加えてさらに不明確であり、いざ問題となった場合に立証することが非常に難しい基準ですので、(ii)を削除するか、または、(i)と(ii)のいずれかを基準とする形で修正することが望ましいでしょう。
 ここでは、(i) 又は (ii) のいずれかの基準によると修正しています。


<英文修正例>

(3) The Recipient shall safeguard all things, documents, and work that embody Confidential Information of the Discloser in areas reasonably restricting access and preventing unauthorized use and/or disclosure. The Recipient shall protect the Confidential Information received from the Discloser by adopting higher degree of care in the following two ways with either: (1) the same degree of care, but no less than a reasonable degree of care, as it uses to protect its own Confidential Information; or (2) the reasonable degree of care the local hi-tech companies normally use to protect their Confidential Information.

<修正例の和訳> (3) 受領者は、開示者の秘密情報を具現化したあらゆる物、書類及び作品を、アクセスが合理的に制限され、不正使用及び不正開示を合理的に防止した区域において保護するものとする。受領者は、開示者から受領した秘密情報を、以下のうちより高い注意義務を用いていずれかにより保護するものとする:(i) 受領者自身の秘密情報を保護するために受領者が用いるのと同等の注意であって、しかし、合理的なレベルを下回らない注意を払うこと、又は (ii) 現地のハイテク企業が、その秘密情報を保護するために通常用いる合理的なレベルの注意を払うこと。





<第4条第4項>

第4項では、不正開示や不正使用時における措置と、裁判所等からの開示命令があった場合の対応を規定しています。

<条文例>
(4) Either Party shall immediately notify the other Party upon discovery of any inadequate disclosure or reproduction of the Confidential Information, or any other breach of this Agreement by either Party, and shall make every effort to cooperate with the other Party to assist the other Party regaining possession of the Confidential Information and prevent its further inadequate use or disclosure or reproduction. In case the Recipient is obligated to disclose the Confidential Information due to a court order, the Recipient shall promptly notify the Discloser and reasonably assist the Discloser obtaining a protective order requiring that the Confidential Information requested to be disclosed or used only for the purpose for which a court issues an order, or for such other purposes as required by law.

<和訳例>
(4) いずれの当事者も、いずれかの当事者による秘密情報の不適切な開示若しくは複製、又はその他本契約違反を発見した場合、相手方に直ちに通知するものとし、相手方による当該秘密情報の占有の回復と、さらなる不適切な使用若しくは開示若しくは複製の防止に対し、あらゆる協力を行うものとする。 受領者が裁判所の命令に基づき秘密情報の開示が義務付けられる場合、受領者は、開示者に速やかに通知し、ある裁判所の命令を発した目的又は法で必要とされた目的に限って、要求された当該秘密情報が開示又は使用されるべきである旨の保護命令を、開示者が受けることについて合理的な協力を行うものとする。



<条文の考え方>

●原案では、上記ように二段には分けられていませんでした。
 この二つの文章は、ともに、「本目的外の使用」に関する定めですので、同じ項目にまとめたのだと思います。
 しかし、最初の一文は「不正」使用の問題であり、第二文は裁判所等への「正当な(義務による)」開示ですので、あまり関連性はありません
 この第二文の内容は、公知や既知となった場合など、「秘密保持義務の例外」に関連して定められることが普通です。それ故、ここでは第二文を改行して表示しています。

    ★ 第2文を、秘密保持義務の例外に関する条項に移動することも考えましたが、実際は、後で見る第5条(例外)にも、ここと同様の定めがなされていました。
  従って、この第2文、又は第5条の定めのどちらかを削除する必要があり、ここでは本項を残し、第5条のその定めを削除しています(第5条に移動する方が普通だと思います)。


<条文修正の考え方>
● まず、これまでと同様に「受領者」「開示者」などの定義をきちんと反映させることが必要です。

● 不正開示があった場合、受領者は「開示者が行う回収と予防対策への協力についてあらゆる努力を行う」としています。
  この「あらゆる努力を行う」(英語では “make every effort”)という文言は、「最善を尽くす」(英語では “use [do, make, exert] one's best endeavors [efforts]”)と同様に、英米法(特に英法)では非常に厳しい義務この義務を負った者は「あらゆるすべての努力・措置を講じない限り免責されない」と解釈される場合もあります。
 従って、上記の「あらゆる努力」という定めはできるだけ削除すべきと思われます。

● 第2文では「裁判所の命令」のみが規定されています。
  しかし、受領者が法的に開示が必要な場合は、裁判所からの命令だけではなく、政府当局から命令がなされる場合も含むでしょう。 従って、政府からの命令を含む形で、修正すべきです。

    ★ 最後の方に ”for which a court issues an order”という表現があります。 しかし、ここでは、第2文の前半に規定された「いずれかの裁判所からの命令があった場合」を踏まえているのですから、 “a court” や “an order” という表現は不適切であり、いずれも“the”により特定すべきです。 つまり「ある裁判所からの何らかの命令があった場合、当該情報は、当該裁判所その命令を出した目的のために使用されるべき」とする必要があります。

●なお、この後半の文の最後の「命令を発した目的又は法で必要とされた目的に限って」の部分は、受領者が開示者に協力することについての限定を付したものと解釈されます。
  しかし、通常は、「この場合、受領者は、裁判所などに秘密情報を開示できるが、その開示範囲は、命令や法の目的の範囲内に限られる」という文脈で使用されるものだと思います。
  その意味で、この条項は、不完全又は不適切だと思われます。 そこで、この後半の部分については、下記の修正内容の末尾に記載したような全面的な修正が望ましいでしょう。


<英文修正例>
(4) The RecipientEither Party shall immediately notify the Discloserother Party upon discovery of any inadequate disclosure or reproduction of the Confidential Information, or any other breach of this Agreement by the Recipienteither Party, and shall make commercially reasonableevery efforts to cooperate with the Discloserother Party to assist the Discloserother Party regaining possession of the Confidential Information and prevent its further inadequate use or disclosure or reproduction. In case the Recipient is obligated to disclose the Confidential Information due to any court order issed by any court or any competent governmental authorities, the Recipient shall promptly notify the Discloser and reasonably assist the Discloser obtaining a protective order requiring that the Confidential Information requested to be disclosed or used only for the purpose for which thea court or the authorities issues ansuch order, or for such other purposes as required by law.

<修正例の和訳>
(4) いずれの当事者も受領者は、いずれかの当事者受領者による秘密情報の不適切な開示若しくは複製、又はその他本契約違反を発見した場合、相手方開示者に直ちに通知するものとし、相手方開示者による当該秘密情報の占有の回復と、さらなる不適切な使用若しくは開示若しくは複製の防止に対し、商業的に合理的なあらゆる協力を行うものとする。 受領者が裁判所又は管轄政府当局の命令に基づき秘密情報の開示が義務付けられる場合、受領者は、開示者に速やかに通知し、当該ある裁判所又は当該当局当該命令を発した目的又は法で必要とされた目的に限って、要求された当該秘密情報が開示又は使用されるべきである旨の保護命令を、開示者が受けることについて合理的な協力を行うものとする。



<後半の全面的修正例>

(4)(前半略)
  The Recipient is permitted to disclose the Confidential Information as required by law or regulation; provided that the Recipient shall (i) give the Discloser written notice promptly upon receipt of a disclosure requirement, and, before the disclosure is made, (ii) take reasonable actions and provide reasonable assistance to the Discloser to secure confidential treatment of the Confidential Information, and (iii) disclose only such Confidential Information as is required.

<和訳>
 受領者は、法規制により必要な場合、秘密情報を開示することが認められる。但し、受領者が以下を遵守することを条件とする:(i) 開示の要求を受けた後速やかに、開示者に対し書面で通知を行うこと、並びに、且つ開示を行う前に、 (ii) 当該秘密情報について開示者が機密扱いを受けられるよう、合理的な措置を講じると共に開示者に合理的な範囲の支援を行うこと、また、 (iii) 要求された範囲の秘密情報のみを開示すること。



(NDA4に続く)

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